PRGRのクラブにまつわる過去や、新製品開発に奮闘する現在、そして新しいクラブを世の中に生み出す未来を紹介していくノンフィクション、PRGRクラブ開発物語、通称「ギアスト!」
今回は、前回ご紹介しました『R35+(アールサンジュウゴ・プラス)』に装着している特殊なグリップについて紹介させていただきます。きっかけは、通常のグリップよりも太くて、重くて、長くて、やわらかい、ある試作グリップを発見したことから始まりました。

とある会社から生まれたグリップ
この試作品のグリップ。通称太グリップを作ったのは、自動車部品や住宅設備、鉄道土木などに使用されるゴム部品を製造する、創業120年以上の歴史を持つ老舗のゴム製造会社。同社の代表はPRGRとの関係も古く、ゴルフ用品にも造詣が深いため、「こんなグリップを作ってみた。」と数年前に提案されたのが最初でした。
太グリップは寸胴形状で通常のグリップに比べて太さと長さがおよそ1.5倍、重さは3倍もあります。当時はこの独特すぎるグリップをどのようにクラブ開発に生かすかという答えがなかったため、サンプル保管庫で数年の時を過ごしていたのでした。
R35ウェッジの課題解決
2005年の発売以来、ロングセラーモデルとして多くのゴルファーのアプローチを救ってきたランニングアプローチギアR35ウェッジですが、打点が安定しない、思ったより転がらないという声があったり、加水分解により経年劣化してしまうなどの課題を抱えていました。そんなある日、保管庫でこの太グリップを見つけたアプローチが苦手なスタッフは、試しにR35ウェッジに装着し、実際にコースで試してみると手先の余計な動きを抑えられ、打点が安定し、転がりも良くなることを確認。
そこでこのR35ウェッジ太グリップバージョンを携え、全国のイベント、試打会などで実際に老若男女、プロ、上級者、初心者問わず様々なゴルファーにこのクラブを試してもらいます。結果、およそ8割のゴルファーがこのクラブに好意的な反応を見せました(なかにはすぐ買いたい!と詰め寄るゴルファーも)。特にしっとりやわらかく弾力のある握り心地が好評で、この感触は雨や汗で濡れてもほとんど変わらず、そして何よりも数年間保管していても材質の劣化が発生していなかったのです。
「この太グリップが、R35ウェッジが持つ課題が解決するかもしれない。」
ゴルファーを救う三種の神器
さらに太グリップをR35ウェッジだけでなく、パターやアプローチウェッジにも装着してみてフィールドテストを実施。パターにいれると重みがあるので、自然とゆったりとしたストロークになり、インパクトでパチンと手を使ってボールに当ててしまう癖を防いでくれて距離感が安定。アプローチウェッジもR35ウェッジでは難しい砲台グリーンやバンカー越えの場面で役に立つので、いつしかこの3本セットはショートゲームが苦手なスタッフにとって、ラウンドの際には手放せないクラブとなっていました。

ラウンドに必ず持参するこの太グリップ3本セットを同組の方にも試してもらうと、重くて振れない。太すぎて握りづらい。慣れないと距離感がわからない。という声はあるものの、人によってはミスが出にくく安定感がアップすると好感触。
その中でも特に反応したのが、ショートゲームが本当に苦手で、アプローチショットの度に辛そうな顔をしていた社内のある人物でした。ショットは良いのに、グリーン周りに来ると次第に顔色が悪くなり、アプローチ、パットのミスを繰り返し、ランチ休憩でもラウンド後のお風呂でも痛恨のミスを引きずって切なそうな表情。ゴルフが好きでラウンド回数は多いけど、結局いつもどんよりした気分でゴルフ場を後にする、そんな人物です。
この人に太グリップ3本セットを試してもらうと徐々にハマっていき、ラウンドの度に楽しそうな顔で3本セットを借りに来るようになりました。そしてこのセットのおかげでゴルフ歴37年にしてなんとベストスコアを更新。この噂がPRGR社内でも広がり、太グリップ3本セットはいつしか”三種の神器”と呼ばれ、週末には貸し出し希望が殺到するようになったのです。
このグリップは、ショートゲームのおかげでゴルフが楽しめず、困っている人に必要なものなのではないか。そう思った企画スタッフは、R35+とともにこの太グリップも市販化すべく、試作品を提案いただいたゴム製造会社を再び訪問します。
太グリップ再現への道
この試作品の太グリップは発泡ゴム製で、これが独特のもっちり柔らかな感触の秘密でした。しかしながら数年前に試作したこの太グリップの材料や配合、加硫時間などのデータが同社に残っていなかったため、開発担当は試作品の太グリップの端部を切り取り、成分や比重を調べ、イチから太グリップの再現に着手することとなります。

ゴムづくりのむずかしさ
太グリップの作り方は意外とシンプルで、まず原材料と発泡材などの添加物を混ぜ合わせ(混練り)、それを押出成型機でチューブ状に押し出してカットし(成形)、芯金を挿してから窯に入れて蒸す(加硫)。

蒸しあがって膨らんだものを研磨して規格サイズにするというものですが、そのすべてを手作業でおこなうため手間と時間がかかるのと、その時の気温や湿度によってゴムの膨らみ具合が異なるため、同品質で量産するのが非常にむずかしい代物だったのです。

製品化への様々な壁
さらに、太グリップの特長のひとつである”張りのあるやわらかさ”も再現しないといけません。やわらかさと比重、質量を目標とする初代の試作品に合わせるのは至難の業でした。材料にカーボンブラックを加えると硬さが安定し目標に近づけることができ、黒色もはっきり出たのですが、発泡ゴムの場合カーボンブラックを含むと色移りしやすく、握った手のひらが黒くなる。これがウェアなどについたらクレームになるかもしれません。
結局グリップの黒さは顔料で対応できたものの、硬さと重さ、サイズの再現にはかなりの苦労を要しました。

何よりも高い壁は、通常のゴルフグリップより3倍近い重さです。発泡率がわずかに変わるだけで、重量、硬度に大きな差が生じてしまう。試作ロットごとに数値がばらつき、製品としてなかなか安定せず、量産品としての品質に仕上げるために、幾度もの試作と修正を繰り返しました。
またこのちくわのような、成形したチューブを芯金に挿して蒸し上げる製法だとグリップエンドがありません。後加工でグリップエンドを接着するなども試みたのですが、最終的にはグリップ交換をユーザー自身が簡単に行えるようにするため、あえてエンド部は作らず、シャフトにエンドキャップをはめ込む仕様としました。

ついに完成した量産モデル
こうして開発着手から1年近くを要し、もともと予定していた発売月の翌月に、ようやく太グリップの量産品が完成しました。
重さは±10gの公差を設けて143g。長さは320mm、外径は32mm。硬度(ショアD)は56でやわらかさも見事に再現することができました。発泡ゴムならではのしっとりやわらかな握り心地は、緊張する場面でも力みづらく、雨や汗などでも滑りにくい。地味な見た目ですが、安心感が先に立つ仕上がりとなりました。

ショートゲームをカンタン、アンシンに
こうしてR35ウェッジにこの太グリップを装着したR35+をランニングアプローチギアとして2025年12月にPRGR直営店、公式オンラインショップにて300本の数量限定で発売。そしてその1か月後、もっとゴルフを楽しんでいただきたいという願いを込めた『enjoy grip(エンジョイ・グリップ)』をグリップ単体として2026年1月に一般発売いたしました。
R35+については、ランニングアプローチという1つのことを極めたクラブなので、アドレスや打ち方をレクチャーして、それを正解とさせていただきましたが、エンジョイ・グリップの使い方に正解はございません。
お持ちのR35ウェッジにいれてバージョンアップしても良いし、他社のチッパーにいれても良いでしょう。ストロークを安定させるためにパターにいれるのもおススメですし、R35ウェッジと同様のパターストロークで球を上げたいのであれば、サンドウェッジやアプローチウェッジにいれても活躍しそうです。
(ドライバーやアイアンなどのフルショットクラブにいれるのは振り切れるかどうか心配ですが、実際にそうやって使っている人もいるので、否定はできません)

正直に言えば、エンジョイ・グリップは誰にでも使える万能なグリップではありません。アプローチやパターに苦手意識が無く、自分の操作、タッチでクラブを操れる人にとっては、太くて重いこのグリップは、かえって打ちづらいものだと思います。そして、ショートゲームに不安を抱えているゴルファーにとっても、通常のクラブとは異なるので振りづらさや違和感はあるでしょう。でもその振りづらさがミスのつながる悪い動きを制限してくれるので、エンジョイ・グリップはほかに代えのきかない存在となるかもしれません。
エンジョイ・グリップは、上達を強いる道具ではなく、ゴルフを楽しむためのハードルを一段下げるための選択肢です。ショートゲームをカンタンに、アンシンに。そしてゴルフをもっと楽しむために。
PRGRはこれからも、ゴルファーの「苦手」「お悩み」の声に耳を傾けながら、ゴルフをもっと楽しくする道具を作り続けていきたいと思います。



