Vol.1 |アプローチが苦手なわたしとあなたへ【R35ウェッジ物語】

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PRGRのクラブにまつわる過去や、新製品開発に奮闘する現在、そして新しいクラブを世の中に生み出す未来を紹介していくノンフィクション、PRGRクラブ開発物語、通称ギアスト!

今回は、発売から20年あまりゴルファーに支持され続けるロングセラーモデル。R35ウェッジ(2005年)を紹介します。

 

科学のチカラでも果たせないもの

今から遡ること20数年前の2003年。PRGR(プロギア)は、チタンとカーボンを組み合わせた複合構造ドライバー『DUO(デュオ)』が一世を風靡し、ステンレスボディとカーボンクラウンの同じく複合構造のフェアウェイウッド『DUO HIT(デュオ・ヒット)』も名器と呼ばれる高い評価を得て、ソール全面をタングステンにした複合構造でスイートエリアと低重心化を両立した『TR-X 910』アイアンなど、科学的なデータに基づくクラブ開発で時代をリードしていました。

 

しかし、開発チームのメンバーは、ある矛盾に頭を抱えていました。

「道具は進化し、飛距離も伸びた。スイートエリアも広くなった。それなのに、なぜユーザーの平均スコアは劇的に向上しないのか?」

 

その疑問は、開発スタッフ自らのプレーでも明らかになりました。ティショットで250ヤード飛ばしても、アイアンでグリーンの近くまで運んでも、最後のアプローチで”チャックリ”や”トップ”を繰り返し、結果として4オン、2パットのダブルボギーを叩く。過去の自分のスコアカードを詳細に分析すると、グリーン周りでスコアを落としていたことに気付きます。そして実際にまわりにはハイレベルなゴルファーでもアプローチショットに悩みを抱えるゴルファーが驚くほど多かったのです。

「自分たちが本当に救わなければならないのは、飛距離の先にあるアプローチショットではないのか?」

 

 

100枚の資料より、1本の試作品

PRGRの企画開発の活動指針として、まずは見て、聞いて、感じて、まずはやってみる。100回の会議より1回のテスト、100枚の資料より1回テスト。というものがあります。ルールや常識にとらわれず、まずは試作品を作って打ってみる。というのがPRGRの開発スタイルなのです。

あるラウンドテストで、ロフトを20度、30度に加工した試作パターを持ち込んだスタッフがいました。(パターのロフトは10度までなのでルール違反)

このパターでラウンドをしながら、グリーン周りのアプローチでも使用してみると、通常のアプローチウェッジよりも簡単にピンに寄ることに驚きます。グリーン上ではルール違反の大ロフトパターが、グリーン周りでより効果を発揮することに気付き、あらためてグリーン周り30ヤード以内に焦点を当てた検証を実施しました。

様々なレベルのゴルファーに、サンドウェッジ、アプローチウェッジ、ミドルアイアン、パター、大ロフトパターを打ってもらい、カップに寄せる成功率を計測した結果、 最も成功率が高かったのは、大ロフトパター。次に通常のパター。その次が8番アイアンでした。一方で、プロのようにふわっと浮かせて寄せようとするサンドウェッジやアプローチウェッジは、最も結果が安定しなかったのです。

ちなみにこの大ロフトパターは、週末になると社内からの貸し出し依頼が殺到。プロ級の腕前を持つベテランから、100切りを目指す若手まで、誰もがそのクラブを握り、週明けには笑顔で返却してきました。

「アマチュアにとって、ウェッジで球を上げるのは当たる外れるのギャンブルに近い。それなら、最初から『転がすこと』に特化したアプローチ専用ギアがあればいいのではないか?」

 

ランニングウェッジの誕生

こうしてアプローチに悩むゴルファーを救うため、本格的にランニングアプローチ用クラブの開発に着手します。

  • パターと同じように構えられるライ角
  • パターと同じようにストロークできる重量感
  • パターと同じように芝の上を滑る広いソール
  • 8番アイアンと同じ「キャリー1:ラン3」の黄金比を生むロフト角

出来上がったのは、当時の常識から外れた不思議な形状のクラブでした。

さっそく試作品を持ってテストラウンドをおこなうと、その結果は結果は驚くべきものでした。アプローチの場面でそのクラブを握ると、不思議とミスをする気がしない。うまくヒットしなかったり距離感が合わなかったりしたけど、とりあえずグリーンには乗る。いつしかアプローチの際には手放せないクラブとなり、なんとも言えない安心感が生まれ、結果的にスコアは劇的に改善する。

このクラブを求めているゴルファーは確実にいる。確信した開発チームですが、そこには大きな壁がありました。社内で大好評のアプローチアンシンギアですが、当時パター型の形状をしたアプローチ用クラブは”チッパー”と呼ばれ、「初心者や女性が使うもの」「格好悪い」「お助け道具」「安価なもの」というレッテルを貼られていました。プライドの高い中・上級ゴルファーは、たとえスコアが良くなると分かっていても、キャディバッグに入れるのをためらう時代だったのです。

 

デザインでゴルファーのプライドを救う

性能が良いだけではダメだ。中上級者もこれを使いたいと思えるステータスを与えなければならない。開発チームは、製品化にあたってデザインに徹底的にこだわりました。

ヘッドはステンレス削り出しで精悍なブラックニッケル仕上げにすることにより、初心者向けのイメージを払拭し、武器のような道具としての本物感をデザイン。グリップは太め重めでやわらかなにぎり心地の合成ポリマー製で、デザイン性が高い専用品を開発。さらにパター同様ヘッドカバーを標準装備することにより、ウェッジとの差別化を狙いました。

そして最も重要だったのがその名称です。 ”チッパー”という言葉を封印し、ランニングウェッジというカテゴリーを設け、商品名については、「アシスト」「ランナー」など、ネーミング候補があがりますが意味を与えようとすればするほど安っぽく感じてしまう。そこでカッコよく呼びやすい記号とし、ランニングの”R”とロフト角の”35”を合わせて「R35(アール・サンジュウゴ)ランニングウェッジ」と命名。ユーザーにわかりやすく、戦略的に「転がして寄せる」というプレースタイルを肯定する新しいカテゴリークラブを宣言するものでした。

「これはお助け道具ではない。スコアをマネジメントするための『戦略的なギア』だ」

 

 

伝説のロングセラーへ

2005年11月、ついに発売されたR35ウェッジは、瞬く間にゴルフショップから姿を消します。

当初の予想を遥かに上回る注文をいただき、半年以上も欠品が続く異例のヒットとなったのです。そして購入いただいた方には、初心者ゴルファーや100切り目標ゴルファーだけではなく、アプローチに悩むベテランゴルファーやスコアにこだわる競技ゴルファーも多く含まれていたのでした。

2010年にはスコアラインの溝ルールの変更があり、ルールに対応する溝にマイナーチェンジしましたが、基本設計とデザインは変わらずに現在に至ります。その間もツアープロが試合で使って話題となったり、ゴルフダイジェスト社のクラブ・オブ・ザ・イヤー特別賞(2023年)を授賞したり、移り変わりの激しいゴルフギアの世界で20年以上も販売を続け、のべ8万人以上のゴルファーに使用いただいております。

 

 

笑顔を生むギア

ゴルファーの中には、グリーンに近づくにつれ過去の失敗の記憶が頭がよぎり、不安でドキドキしてしまう人がいます。 「ザックリしたらどうしよう……」「ホームランして反対側のバンカーに入ったら……」「グリーン周りに行くと気が重い、ツライ……」

R35ウェッジが提供したのは単なるスコアアップだけではありません。その1本がバッグにあることで得られる安心感と、グリーン周りでの成功イメージ(ワクワク感)でした。

「ゴルフをもっと楽しく、多くのゴルファーを笑顔にしたい」 PRGRの根底に流れるブランドポリシーは、R35ウェッジという1本のクラブにも凝縮されています。今日もどこかのゴルフ場で、R35ウェッジを握ったゴルファーが、ラウンドしていることでしょう。

そこにあるのは、安堵の溜息ではなく、最高に晴れやかな笑顔と笑い声なのです。

 

 

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