第8話 『高打ち出し、低スピン。新構造への挑戦!DUO誕生。』

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PRGRの成り立ちやクラブにまつわる過去、新製品開発に奮闘するスタッフのいま、そして新しいクラブを世の中に生み出していく未来を紹介していくノンフィクション、PRGRクラブ開発物語、通称ギアスト!

1983年に業界参入し最後発メーカーと言われたPRGRも、独自の理論と商品開発、独創的な広告宣伝により徐々に認知が高まり、大ヒットや大失敗を繰り返しながら、創業から15年も経過するころには、ゴルフクラブ、グッズ、ボールだけでなく、ゴルフウェア、ゴルフシューズ、さらにはゴルフスクールなども事業展開し、海外進出も果たす総合ゴルフメーカーとして、業界内では準大手のポジションを築いていました。

 

忍び寄る危機

準大手というポジションの総合ゴルフメーカーとしての役割は、多くのゴルファーのニーズを汲み取り、それぞれのゴルファーに対応する商品群を準備するということでもありますが、そのようなポジションは本来のPRGRの独創的なモノづくりとは一線を画すこととなります。そして常に時代の先を行き業界に驚きを与えて来たメーカーに対する期待値は、いつしか大きな重荷になって開発スタッフを悩ませるのでした。

 

開発スタッフ 『もっともっと、アマチュアゴルファーの飛距離を伸ばせる方法を模索しよう。』

 

さらなる研究開発を進め、ゴルファー自身のポテンシャルを越えるギア開発に取り掛かります。そこで取り組んだのが、”ヘッドスピードとボールスピードのアップ”です。クラブの長尺化でゴルファーのヘッドスピードをアップすることには成功していましたが、さらなる加速を実現するためにゴルファーのスイングを研究した結果、タメが作れていないゴルファーが多いことを発見しました。

そこで、シャフト自身がタメを作るダブルキックポイント設計の”スピード・シャフト”を開発。さらにフェースの反発を高めボール初速をアップさせるために、高反発鍛造βチタンを採用し、ゴルファーが持つポテンシャル以上のスピードを得られる、SPEED TITANが2000年に誕生。

本格派ゴルファーに受け入れられ市場でのシェアを拡大したリバースシリーズから、新世紀の幕開けに相応しいPRGRらしいドライバーがようやく出来上がりました。

そうした状況のある日、開発チーム、技術チーム、生産チームから数名が集められ、あるプロジェクトが発足します。

 

D-PROJECT

名づけられたプロジェクトネームは”D-PROJECT”。先行開発チームが研究していたいくつかの素材、技術、試作モデルを商品化するためのプロジェクトです。

ドライバー開発に特化するという意味を持って立ち上がったD-PROJECT。様々なセクションから集まったメンバーに共通する理念として、プロジェクトリーダーはメンバーにこう語ります。

 

PJTリーダー 『開発したドライバーで打ったボールが、青い空に向かって気持ちよく飛んでいく。その姿をイメージしながら取り組んでいこう。』

 

このイメージをプロジェクトの開発理念とし、商品化に向けプロジェクトが動き出します。

ほどなくして、発売されたSPEED TITANは予想以上の苦戦を強いられます。アベレージゴルファー、スライサーには高い評価を得たものの、DATAアイアン、リバースウッドを使用していた本格派ユーザーにとっては、捕まりすぎるヘッド、自動的にタメを作ってくれるシャフトは挙動が合わず評価を得られませんでした。

数年続いた競技ゴルファーからの支持はここで寸断します。さらにSPEED TITANと同時発売していた中空構造のSPEEDアイアンも、キャビティ構造のDATAシリーズからの脱却を図った元来のPRGRらしいクラブでしたが、これもDATAシリーズで獲得した本格派ゴルファーが求めるものとは異なりました。

”自分達の使いたいクラブを作る””世の中の9割のゴルファーが否定しても残り1割のゴルファーに強烈に支持してもらえればよい”という業界参入時の創業メンバーの考えは、準大手となり会社規模も大きくなったPRGRにおいては、成り立たない現実を痛感させられたのでした。

SPEEDチタン、SPEEDアイアンの不振は大きな打撃となって事業経営を圧迫します。

 

PJTメンバー 『このままでは大変なことになる。なんとしても、D-PROJECTを成功させないといけない。』

 

こうしてプロジェクトチームが開発を続けていたドライバーのゴール(発売)を2003年1月と定めます。期日まで24ヶ月。ゼロからのスタートなので、長い様でとても短い期間での開発となります。前回のギアスト!では1983年に創業し、約10年後に訪れた大ピンチをご紹介しましたが、そこからさらに10年後。PRGRはまたしても大きなピンチに直面することとなりました。

 

D-PROJECTのクラブ完成はまだ先。そこでD-PROJECTとは別の開発チームが契約プロに向けて試作していた、オーソドックスな形状ながら反発性能の非常に高いSPEED TITAN TR(2001年)SPEED TITAN TR-X(2002年)を急遽発売。

契約プロの飛距離アップから火が付き再び競技ゴルファーに注目されることになりますが、V字回復させるには至りません。

そのような苦境のなか、D-PROJECTは未知のドライバー開発を続けます。

 

高打ち出し・低スピンへの挑戦

当時ドライバーは高反発時代に突入しており、反発性能を高めた鍛造チタンが時代の中心にありました。その反面、耐久面を考慮するとその反発性能は限界に近づいており、さらにルールで高反発フェースが規制されることも予見されるなか、ボール初速に変わる新たな飛ばしのファクターを確立させる必要がありました。

飛距離に影響を及ぼす要素において、ボール初速は68%、バックスピン量は19%、打ち出し角は13%で構成されるというデータがあります。そこでプロジェクトチームはボール初速が限界だとしたら、残り32%での飛距離アップを目指すこととします。

漫画のような話ですが、”3番ウッドのフェースにスキンケアクリームを塗ってティーアップして打つと、フライヤーのようなボールになってドライバーより飛ぶ。”という話が本格派ゴルファーの間では話題になっていました(もちろんルール違反です!)。そこでプロジェクトチームは実際にこの弾道を再現すべく、横浜ゴム茨城工場にある約15000平米、奥行き300ヤードのPRGRテストフィールドで検証してみます。

その弾道を再現するのは”ランチャー”という野球のピッチングマシンを大型化したような装置。あらかじめ設定したボール初速、打ち出し角、バックスピン量でボールを射出することができる装置です。

この装置を使い、来る日も来る日も実に10,000球以上もの弾道テストを行った結果、飛距離アップの鍵を発見します。

※ヘッドスピード40m/sのテスト結果の等値線(コンター)図。左上にいくほど飛距離が出る

 

PJTメンバー ヘッドスピード40m/秒でも、打ち出し角を20度、バックスピン量を1000回転/分にしたら260ヤード飛ばすことが可能だ!こんな弾道を自然に出せるドライバーを作りたい。』

 

こうして開発理念を実現するために設けた開発目標を、”反発係数0.85オーバー、打ち出し角2度アップ、バックスピン量500回転/分減少”という具体的なものにして、その開発目標を獲得すべく様々な試作ヘッドで試行錯誤を繰り返します。

※異素材の金属を接着した複合モデル

 

※クラウンとソールにカーボンを使用したモデル

 

※フェースを円状にすることにより、反発をさらに強めたドラムフェースモデル

 

※重心をフェース中央に配置し重心インパクトを実現するシンメトリーカーボンモデル

 

※同じく重心をフェース中央に配したシンメトリーチタンモデル

 

※左右慣性モーメントを極限まで高めるためフランジをつけたモデル

 

こうして開発した試作モデル、サンプルヘッドの数はいつしか1000を越えていました。

様々なテストをおこなう中で、カーボンクラウン+チタンボディ構造のモデルはインパクトの瞬間フェースがわずかに後ろに倒れこみ、これが高打ち出し、低スピンに有効であることを発見します。

 

PJTメンバー 『チタンとカーボンの複合構造ドライバーが最も性能評価が高い。2つの素材が生み出すこの弾道が、閉塞した状況をきっと打開してくれるはずだ!』

 

量産化への壁

チタン+カーボン複合ドライバーに一筋の光を見つけたプロジェクトチーム。ただし商品化するためにはその複雑な構造のため様々な技術開発、耐久試験が必要となります。

ボディはチタン鋳造でフェースは高反発チタン素材を使用。このシェルの上部を航空宇宙分野に用いられていたカーボン(CFRP)で内側と外側からサンドイッチし、トゥのワッペン部分の穴からブラダーと呼ばれるタイヤ成型でも使われる風船のようなものを入れ、これを膨らませてシェルとカーボンを接着。さらに圧力をかけて成型します。

こうして横浜ゴムの航空宇宙技術とタイヤ生産技術を注ぎ込んで出来上がったヘッドが完成。さらにシャフト研究チームにより開発された、従来のPRGRシャフトには無かったハリを感じながらもしなやかなシャフトを純正シャフトとして採用、遂にサンプルクラブが完成しました。ひとつのクラブを完成させるために、実に6ヶ所の工場を経由しなければいけないという前代未聞のクラブです。

 

ただし市場に出すためにはここからが本番。カーボン複合という新しい構造は未知の部分が多く、製品に瑕疵が発生しないように様々なテストをゼロからおこなわねばなりません。多様な環境を想定し、試験を繰り返して市販化を目指します。

※真夏の自動車のトランクを想定した高温、高多湿の環境下でのテスト

 

※複数のヘッド耐久試験機による耐久テスト。ヘッドが壊れるまで24時間体制で実施しデータを蓄積

 

※タイヤのロードノイズ評価で使用される人型マイク。両耳にステレオマイクが埋め込まれており、実際に人が聞くのと同じ条件で外音を測定出来るのが特徴

 

性能、耐久だけでなく、ゴルファーの感覚に訴えかけるような形状、打球音、打球感にも徹底的にこだわり、量産サンプルが完成してようやく市販化の目処が立ちました。同時に開発していた他モデルの開発を中断し、チタンカーボン複合構造ドライバーをプロジェクトの成果として発売することを決定します。

 

PJTメンバー 『チタンとカーボンの2つの素材を合体させたDUO構造。こいつが生み出すDUO弾道ならゴルファーに新たな飛びを提供できる。』

 

衝撃のデビューと衝撃的なアクシデント

こうしてモデル名をDUOとし、秘密裏に進められたプロジェクトのゴールが見えてきました。好評だったTR、TR-Xドライバーの雰囲気を残したカーボンコンポジットドライバーとして、2002年12月に発表、明けて2003年1月の発売を控えたタイミングの2002年11月に事件がおこります。

契約していた日本を代表する兄弟プロが発表前のDUOを使ってトーナメントで大活躍。特に太平洋クラブ御殿場コースの18番ロングホールでは、セカンドショットをピッチングウェッジで2オンして見せたのです。これもあって12月の発表会でのDUOへの注目度は最高潮に高まり、発売前からゴルファーに大注目され、ゴルフショップからは従来では考えられないくらいの初回注文をいただいたのでした。

 

PJTメンバー 『よ、予想以上の反応!!』

 

長年悩まされていた、PRGR独自路線とゴルフの王道路線の乖離。王道路線がPRGR寄りに近づいてきたことを実感するプロジェクトメンバー。

ただし、そんなメンバーの喜びを一瞬で凍りつかせるあるアクシデントが発生します。

 

営業マン 『試打クラブのDUOワッペンが取れました!』

 

発表とともにゴルフショップに設置していたDUOのトゥのワッペンが取れたという報告が営業よりあがってきました。

 

PJTメンバー 『えっ!?』

 

前述したヘッド成型の際にブラターを入れるための穴を塞ぐワッペンが取れたという現場からの報告。そして現場からはさらなる続報が、、、

 

営業マン 『試打クラブのフェースとクラウンの境目に髪の毛くらいの細さの亀裂が発生しましたー!!』

PJTメンバー 『まさか!そんな馬鹿な!!』

 

あれだけの耐久試験を繰り返したのに何故。そんな思いを抱きながら、発売まであと数週間、スタッフはお正月休みを返上して原因究明をおこないます。

結果、ワッペンについては試打クラブのロット生産分のワッペンのR(曲面)が弱かったことが判明。フェース上部の細い筋については、カーボンクラウンがたわむことにより塗装が引っぱられて起こる塗装割れであることがわかりました。どちらも冬場の気温が低い環境下により顕著に現れた現象でした。様々な環境を想定してテストをおこなってきましたが、実際の環境下ではやはり想定を超えるアクシデントが発生するようです。

ワッペンについては市販品から対策し、発売までになんとか間に合って事無きを得て、フェース上部の細い筋に関しては耐久テストの結果ここからヘッドが破損するということは無いことが判明した為、ゴルフショップ店頭やホームページにて”使用していると塗装に筋が発生する可能性があります”というデメリット表示を告知することとしました。

(結果この筋は、カーボンクラウンをたわませて高打ち出し、低スピン弾道を生む”DUO効果”の証明となり、”DUOライン”と呼ばれ爆発的な販売の後押しに繋がることとなります)

 

2003年に発売されたTR340 DUOTR-X370 DUOはその年ゴルフ業界で最大のヒット作となり、累計販売10万本を越える歴代のPRGRで最高の売り上げを誇るドライバーとなりました。

 

PJTメンバー 『ようやくPRGRらしさを持ちながら多くのゴルファーに支持されるギアを作ることができた!』

 

こうしてD-PROJECTで最初に掲げられた理念は3年後に現実のものとなり、多くのゴルファーの飛距離アップに貢献するとともに、新しいテクノロジーをゴルフ業界に示したのでした。

※当時のDUOのカタログの見開き。青空に白球が吸い込まれる様子をイメージしている

 

なお、このように世の中をリードしたものの、画期的な商品を生み出し続けることは並大抵のことではありません。このDUOシリーズも2代目を以ってラインナップから姿を消すこととなりますが、ここで得たカーボン複合の知見と技術はその後のクラブ開発にも生き続け、現代のRS5ドライバーにも受け継がれているのです。

 

つづく

コメント

  1. シュガーレイレナード より:

    このクラブの開発秘話を待っていました
    DUOが世に出た時はこんなに斬新でありながら画期的なクラブを開発するなんて凄いメーカーだと驚きました
    それまではジャンボ尾崎プロがハイティからのカチ上げアッパーで実現していた高打ち出し低スピンをゴルファーの技術でなくクラブが行ってくれるという新しい時代の始まりを感じました

    1. prgr より:

      シュガーレイレナードさん
      コメントありがとうございます!当時契約していたジャンボ尾崎プロの弾道は凄かったですね。ハイティーでのカチ上げアッパーをしないでも同様の弾道が得られるDUOを気に入っていただいていたのは他ならぬジャンボ尾崎プロでした。ギアに対する探究心が凄いですね(^_^)

  2. まあさ より:

    プロジェクトX,PRGR編ですね。
    感動しました。
    Nさん、文才ありますね(^_^)

    1. prgr より:

      まあささん
      コメントありがとうございます!開発チームは毎日がプロジェクトXのようです。私は文才はありませんが、3年以上ブログを続けてきたお陰で、ちょっぴり文章がかけるようになったような気がします(あいかわらず誤字脱字が多いですが(^_^))

  3. カズさん より:

    読み応えがあります。

    1. prgr より:

      カズさんさん
      コメントありがとうございます!もうちょっと更新頻度があげられれば良いのですが、、、(^_^)

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