第5話 『ゴルファーに物差しを。ヘッドスピードへの挑戦。』

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PRGRの成り立ちやクラブにまつわる過去、新製品開発に奮闘するスタッフのいま、そして新しいクラブを世の中に生み出していく未来を紹介していくノンフィクション、PRGRクラブ開発物語、通称ギアスト!

毎回ご覧いただきありがとうございます。私PRGRで販売促進を担当しておりますNと申します。

さて、”ギアスト!”のネタ探しや記事制作のために過去のカタログや資料を眺めていたら、こんなマークをよく目にします。

これは1980年代によく使われていた組みロゴマークなのですが、金赤の楕円にPRGRブランドロゴと販売会社スポーツコンプレックス(SPORTSCPLX)のコーポレートロゴ、そして間にある【MAXIMUM DISTANCE AT YOUR HEAD SPEED.】というのは、ヘッドスピード理論とともにゴルフ業界に参入したPRGRの最初のブランド・アイデンティティです。

ここに記されている”HEAD SPEED(ヘッドスピード)”。今回はPRGRとヘッドスピードの関係についてご紹介したいと思います。

 

ヘッドスピード・コンセプト

1980年代初頭、すでにゴルフ業界は大きな市場規模を持ちメーカーも飽和状態。ゴルフ事業へのチャレンジを決めた創業メンバーは、後発メーカーならではの他社との差別化を模索していました。ゴルフに関しては素人集団だった彼らは、まず色々なゴルファーへのヒアリングを行うとともに使用クラブを調査。飛ばし屋と言われる人はシャフトが硬いクラブを使っているし、背の高い人は長いクラブを使っている。非力な人は軽いクラブを使い、学生時代に柔道に打ち込んでいた人は重いクラブを使っていた。しかし中には体の小さい飛ばし屋もいるし、ラグビー経験者なのにあまり飛ばない人もいたりして、クラブ選びの基準がいまひとつ曖昧です。

さらに、「昨日飲み過ぎたから体が動かなくて飛ばない。」「今日は調子が良いからヘッドが走る!」なんて言われてますます開発スタッフの頭を悩ませます。

 

創業メンバー 『う~ん。抽象的すぎて全然わからない!何か基準となるものが無いものか。。。』

 

飛ぶ人と飛ばない人の決定的な差は何なのか。ヘッドが走るというのは具体的にどういう現象なのか。これらを具体的に表す指標として彼らが着目したのが”ヘッドスピード”でした。ヘッドスピードとはボールを打つ直前100mmのクラブの通過速度ですが、当時はあまり一般的ではありませんでした。早速創業メンバーは、大手電機メーカーより発売されたヘッドスピード測定器を購入し、プロからアマチュアまで様々なタイプのゴルファーのヘッドスピードをひたすら測定し続けたのでした。

すると、ヘッドスピードが飛距離に大きく影響することを確認します。こうして今までプロ、飛ばし屋、アベレージヒッター、女性というように漠然とカテゴライズしていたものをヘッドスピードという数値でグループ化することが出来たのです。当時の資料を見ると、飛ばし屋のプロはヘッドスピードが49m/秒前後、一般的なプロゴルファーは46m/秒前後、アマチュアの飛ばし屋は43m/秒前後、一般的なアマチュア男性は40m/秒前後、女性ゴルファーは34m/秒前後となっております。

創業メンバー 『やっと基準となる数値を発見した。体格や運動歴ではなくヘッドスピードでゴルファーを分類すればいいんだ。』

 

さらにヘッドスピードと飛距離の相関についても発見します。飛距離を構成する要素として、ボール初速、打ち出し角度、バックスピン量、空気抵抗、落下角度などがあるということはわかっていましたが、その中でも飛距離に一番大きな影響を及ぼすのはボール初速。そしてエネルギーの法則から、ボール初速を生み出すのは【ヘッド重量×ヘッドスピードの二乗】であることに着目し、ヘッドスピードが飛距離の大きな鍵であることを数多くの実打テストにより実証します。

*PRGRテストロボット第1号君と開発中のヘッドスピードテスター

当時の資料によるとヘッドスピード40m/秒でナイスショットした場合、キャリーは180メートル※1。ヘッドスピードに4.5をかけるとおおよその飛距離※2を導き出せることに気付きます。自分のドライバー飛距離をそのホールの距離からグリーンまでの残り距離を引くことでざっくりとイメージしていたゴルファーに明確な飛距離も植え付けたのです。

※1 当時はメートル法普及のためメートル表示でした。(ヤードに換算すると180メートルはおよそ198ヤード)

※2 ここでの飛距離はキャリーで尺度はメートルです。(ランを含めたトータル飛距離でヤード換算の場合は、ヘッドスピード×5.5と定義していました)

 

創業メンバー 『クルマは排気量によってタイヤを変えて最適な走行性能を確保している。だったらゴルファーも自分のヘッドスピードに合わせたギアを使うべきだ!』

 

それぞれのヘッドスピードに合わせて最大の飛距離が出せるギアを開発すれば、きっとゴルファーに喜んでもらえる。ヘッドスピードが40m/秒のゴルファーに、楽に打っても200メートル(220ヤード)飛ばせるドライバーを作ろう。と考え、ヘッドスピード別に打ちやすく効率よく飛ばせるクラブの開発に取りかかったのです。このゴルファーの物差しとしての役割、さらに飛距離アップのための要素として【ヘッドスピード理論】を構築し、ゴルフ業界に参入したのでした。

 

MAXIMUM DISTANCE AT YOUR HEADSPEED.(あなたのヘッドスピードで最大の飛距離を提供する)

 

ゴルファーそれぞれのヘッドスピードで最大の効率(飛距離)と確率(方向性)を生み出すギア。PRGRのギア開発の中心に【ヘッドスピード理論】を据えて、まずはヘッドスピード別に素材の配合を変えた6タイプのツーピースボールと、

 

ヘッドスピード別にヘッド形状、重さ、長さなどを変えた6タイプのドライバーを発売。

ゴルフ業界をあっと言わせる、衝撃のデビューを飾ります。

ヘッドスピード測定器の変遷

さて、ヘッドスピード理論とともにゴルフ市場に参入したPRGRですが、そもそもヘッドスピードというものの認知度が低く、測定したことが無いというゴルファーがほとんど。まずヘッドスピードを普及させないことにはクラブ、ボールが売れません。ということでPRGRとは切っても切れない関係にあるヘッドスピード測定器の歴史を振り返ってみます。まず最初に自社開発し、発売したのがこちら。

HEAD SPEED TESTER(1984年)

初代ヘッドスピード測定器です。アナログ計ではなくデジタル表示のユニットと磁気センサーを内臓したラバーマットのセットでした。ドライバーヘッドのソールに貼った磁石をセンサーが感知して計測するタイプで、これを持って営業マンはヘッドスピードの布教活動に励む宣教師となり、来る日も来る日も”ヘッドスピード無料測定会”を全国のゴルフ練習場で実施したのです。

 

なお、当時のゴルファーのヘッドスピード分布は以下の通り。

現在とはクラブ長さ、クラブ質量が異なるので単純に比較はできませんが、ヘッドスピードの中心層は37m/秒~40m/秒でした。

 

HEAD SPEED TESTER(1993年)

そしてヘッドスピードをより一般ゴルファーに身近な存在とすべく生まれたのが2代目のヘッドスピード測定器です。こちらも磁気センサーで、クラブのトゥ部分に小さなマグネットを貼り付けて2つのセンサー間を通り抜けるスピードを計測しヘッドスピードを表示。手の平サイズのうえシンプルで使いやすく、長年多くのゴルファーに愛された測定器でした。

 

ヘッドスピードアップが飛距離アップにつながるのは間違いない。ではいかにゴルファーのヘッドスピードをアップさせるか。1990年代、チタンヘッドドライバーの登場によりヘッドの大型化、クラブの軽量、長尺化が加速し、”ゴルファーのヘッドスピード+3m/秒”を開発目標とした47インチの最大飛距離ドライバー、Reverse TITAN Type310(通称H/S赤パワー)が誕生。

実際、数多くのゴルファーのヘッドスピードをアップさせ、世の中に驚きと飛距離アップを提供しました。

*ゴルファー100人の検証試打で、平均2.4m/秒のヘッドスピードアップを実現。

 

RED EYES POCKET(2009年)

そして約16年振りのモデルチェンジにより登場した測定器は、マイクロ波レーダー方式を採用。自動車を運転する人はよくご存知の、速度取り締まりでよく使われているアレと同じ方式です。これによりマグネットを必要としないだけでなく、ボール初速を測定することが可能となりました。さらにスピードガンモードでは野球やサッカーなどゴルフ以外のスポーツにも使え、活躍の場を広げていきました。

よく以前は「PRGRのヘッドスピードは辛いよね~。」と言われることが多かったのですが、ゴルファーのパワーレベルの基準となる”ヘッドスピード”という物差しを作ったので、その物差しがブレないようにPRGRは測定器を作り続けております。

 

なおクラブの進化も、クラブ長さのルール限界(48インチ)に迫る、軽量・長尺・太グリップのNEW eggbirdドライバーが登場。ヘッドスピードアップでの限界飛距離を目指しました。

 

NEW RED EYES POCKET HS-110(2014年)

そしてマルチスピードモニターのモデルチェンジとして誕生したNEW RED EYES POCKET。 よりコンパクトで使いやすく、そして推定飛距離モードの追加により、ゴルファーにさらなる楽しさを提供しました。

飛距離への飽く無き追求は、ボール初速アップのための”ギリギリ”設計へ。2016年発売のRSドライバーはフェースの反発をルール”ギリギリ”の限界に挑み、新たな挑戦が幕を開けました。

そして、

 

■米国 フロリダ州

どこまでも続く抜けるような青空の下、日本では考えられない広大なドライビングレンジにPRGRブルゾンを着た男がゴルファーと対峙しています。

その足元には、見慣れない黒い筐体にヘッドスピードがマイルで表示されたヘッドスピード測定器が。

そう、これは米国向けのヘッドスピードテスターなのです。

PORTABLE LAUNCH MONITOR(2019年)

いまやゴルフの世界では当たり前になったヘッドスピードですが、PRGRの名前は広い世界ではまだまだ知られていません。

30数年前、ヘッドスピードテスターを車に積み込んで日本全国で普及活動をおこなってきたPRGR営業マンの活動は世界に広がり、今日もPRGRというブランドを訴求するために活動を続けているのです。(ちなみに現在、米国版ヘッドスピード測定器の年間販売数量は日本の販売数の約20倍を超えるほど大ヒットしております)

 

ヘッドスピードの進化

こうしてヘッドスピードの普及によりゴルファーに、自身のパワーレベルを知ってもらうことができました。PRGRはゴルファーのスイング解析という基礎研究の手を緩めることなく、2006年にはスイングタイプを分類するグリップスピード理論を提唱。さらに2008年にはスイング解析システム、サイエンス・フィットを立ち上げ、2019年にはより詳細な体の動きを測定するスイング・スキャンを導入。ヘッドスピード測定が体温計での検温だとしたら、大学病院の人間ドックのような設備でゴルファーのスイングを科学的に解析するシステムを作り上げました。

もちろんサイエンス・フィットでも、

ヘッドスピードはマイクロ波レーダー方式で計測。

この計測機はPRGR直営店や全国約100店舗のPRGRフィッティングマイスターショップに設置されております。

■PRGRフィッティングマイスターショップはこちら

 

なお直営店、フィッティングマイスターショップで計測された全国のゴルファーのデータは、

PRGRの研究開発部門に集積され、貴重なデータとして基礎研究、クラブ開発に生かされております。

ちなみに以下が過去から現在に至るゴルファーのヘッドスピード分布の推移です。40年近く前はヘッドスピードの中心層が37~40m/秒だったものが、徐々に速い方向に移動しております※3。クラブの急激な進化等により、ゴルファーのヘッドスピードも進化しているということがわかります。

※3 1983年の数値は事業参入前の測定データ。1998年の数値は『ヘッドスピードを測ろうキャンペーン』での10万人測定データ。2012年の数値は『PRGR全国一斉試打会』での2000人のデータ。2018年はREDEYES ROBOでのRSシリーズを対象とした測定データ(アスリートモデルのRSシリーズのため対象ゴルファーのヘッドスピードが高くなっております)

 

以上、今回はPRGRの原点であるヘッドスピードについてお届けしました。ヘッドスピード測定はゴルフの健康管理にはとても大切です。お近くのショップ、PRGR試打会などで、ぜひヘッドスピードを測定してみてください。

つづく

コメント

  1. シュガーレイレナード より:

    いつも楽しく読ませていただいております。
    いつもと違う真面目なNさんの文章もとても興味深く面白いです。

    HEAD SPEED TESTER(1993年)これを買って練習場に持ち込んではリキんで引っ叩いていたのが懐かしい思い出です。

    1. prgr より:

      シュガーレイレナードさん
      コメントありがとうございます!こちらではあまりふざけ過ぎるとPRGRのイメージに影響しそうなので、真面目にお伝えしております。グレーのヘッドスピードテスターはヘッドスピード測定をぐっと身近にすることができました(^_^)

  2. JAL より:

    アメリカでヘッドスピード測定器が売れてるなんて知らなかったです!購入してみます。

    1. prgr より:

      JALさん
      コメントありがとうございます!アメリカでも予想以上の反響のようです。しかも皆さん凄いスピード!パワーが違います(^_^)

  3. K島 より:

    すみません。外伝があるのを今まで気づきませんでした。一話なら読んで感動しております。私のプロギアとの出会いはスピードヒットからでした。全て中古でしたが、4+、5. 7. と使っておりました。アイアンライ角がアップライトな私には、非常に使いやすくありがたかったです。

    1. prgr より:

      K島さん
      コメントありがとうございます!こちらにもお越しいただきありがとうございます。ギアスト!では懐かしいクラブとともに、いま開発中のクラブなども紹介していきたいと思います。サイエンスフィット日記ともどもよろしくお願いいたします(^_^)

  4. ヤシチ より:

    35年のキャリア、へたくそゴルファー、10年前は平均90、70歳になった今は100。一昨年まで33年間すべてPRGR,今はちょっと他メーカーが混在。ドライバーの飛距離は昔から約200ヤード、昔からM37~M40のシャフトクラブ使用。TYPE310も1W、4W、5Wと保有(一昨年まではRED)。一昨年のある日義理息子が持っていたキャロウエイ、レガシ2013+モトーレスピーダー661 Sを借用試打。私の能力では間違いなくオーバースペックの難しいクラブのはず!!!。でも不思議、残り9ホールの1Wがほぼ完璧。「重い、硬い、上級ヘッド」がなぜ私に合うのか????。未だ技術・理論的に教えてくれる人はいません。今はウッド(1W,3W,4W、5W、7W)のシャフトをすべてモトーレスピーダー661 S(もちろん中古)に。TYPE310、HS350、ID RED、等々お蔵入り。最近UT、ウエッジもお休み。今PRGRはアイアンの#7~#9だけになりました。教えてください、やさしいクラブ選びを

     

    1. prgr より:

      ヤシチさん
      コメントありがとうございます!長きに渡りPRGRクラブをご愛用いただきまして誠にありがとうございます。TYPE310(赤パワー)は1999年発売ながら軽量長尺設計でいまだに『あれが一番飛んだ!』という人が多いクラブです。

      なお赤パワー、REDに比べて、モトーレスピーダー661シャフトは、確かにクラブ質量が重く、シャフトもしっかりですね。これが何故ヤシチさんに合ったのか!?スイングも見ずにお答えできませんが、両者はシャフトの特性も大きく異なるかと思います。

      手元側の剛性を高めて先端を走らす反応の良い走り系のモトーレスピーダーと、手元から大きくしなってゆったりと戻ってくるRED系のシャフト。スイングタイプによって振りやすかったり、タイミングを合わせやすいシャフトは異なってくると思います。ヘッドスピードというパワーレベル以外にもスイングタイプを解析することによって、よりマッチしたクラブに出会える可能性が高まります。PRGRでは直営店のサイエンスフィット等によりスイング解析もおこなっておりますので、ヤシチさんの疑問にお答えできるかもしれません。引き続きご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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